「太陽の樹」と呼ばれるオリーブ樹は、有史以前からシリア・メソポタミア・イスラエルなどに自生していたと考えられ、原産は中近東と言われています。学名はOlea europaea。モクセイ科の常緑樹で高さは3~10メートルになります。現在、オリーブ樹はスペイン・イタリア・ギリシャなどの地中海沿岸地方だけでなく、世界各地で栽培されており、その品種も500種を超えると言われています。生命力が強く、樹齢が長いのが特徴で、スペインなどでは樹齢500年を超える古木が今なおたわわに実をつけている姿を見かけます。日本にオリーブ樹の栽培が伝わったのは、幕末とか。今では、気候が適した香川県小豆島と岡山県牛窓町が日本の二大産地として知られています。
四季を通じて緑を絶やすことのないオリーブの葉の色は「オリーブグリ-ン」と呼ばれ、深みや落ち着きそして上質感を与えるカラーとして、装いやインテリアなどで人気があります。また、庭園で陽光とそよ風を受け、きらきらと白銀色に輝くさまは、いつまでも見飽きることがありません。南仏アルルの村で、ゴッホもこのオリーブのきらめきのとりこになった程。弟テオとの書簡の中に、オリーブ葉のきらめきについて情熱的に記されているものが遺されています。よく見るとオリーブ葉の表面はつややかな濃緑色で、裏面には白い細毛が密生しています。「銀葉」と呼ばれる秘密は、葉の裏面にあったのです。さらに最近の研究では、オリーブ葉に含まれる成分に抗酸化作用が認められるという報告もされました。オリーブ葉は美しいだけでなく、効用もあるのです。
重い上着を脱ぎ捨て、軽やかなシャツに袖を通す5月半ば頃、無数についたビーズ玉のようなオリーブのつぼみが少しずつ膨らんできます。そして5月終わりから6月半ばにかけて、キンモクセイによく似た小さな白十字の花を咲かせます。少し甘く、少し切ない・・・懐かしい記憶がふと甦るような、清楚で可憐な香り。
それから、花の季節のほんの数日、明け方のオリーブ樹はふんわりと花粉のベールをまとい、花嫁支度をします。オリーブは風媒花。朝のそよ風にのって、品種の異なる花粉と花が出会います。
9月から11月にかけてオリーブの実はエメラルドグリーンから黒紫色に色づいていきます。たわわに実るその姿は、まさに「豊穣の樹」。でも、オリーブ果実は渋みや苦みが強いので、小鳥や動物もついばむことがほとんどありません。渋抜きをして塩漬けや酢漬けに加工したり、油を搾る技術があってこそ、オリーブ果実が宝石のように輝いて見えるのです。
古代オリンピックでは、選手は筋肉疲労を回復するためにオリーブオイルを塗ったとか。また、クレオパトラが美しさを保つために、オリーブオイルを使っていたとも。貯蔵や交易のためのオリーブ壷(アンフォラ)も遺跡から多数発掘されています。1世紀頃の、全ての富と権力が集中したローマ帝国では、オリーブオイルは「液体の黄金」と呼ばれ、取り引きの中心となっていたようです。健康を重視する昨今では、その食生活の重要なポイントであるオリーブオイルの効用について研究がすすめられています。
ギリシャ神話や聖書には、オリーブ樹は平和や豊かさの象徴として多数登場します。ノアの方舟に、鳩がオリーブの小枝をくわえて戻ってきたため、洪水がひいたことがわかった話が有名です。また、ポセイドンが戦争に役立つ馬を、アテナが暮らしに役立つオリーブを発明し、アテナが勝ってギリシャのアテネの所有権を得た。さらに、樹の王を決める会議で、オリーブは「暮らしの中で役に立ちたい」と言い、王の座を辞退した話もあります。古代オリンピックでは、勝者に与えられたのは月桂樹ではなくオリーブの冠だったとも。現在オリーブは平和のシンボルとして国連のマークにデザインされています。